【アウディのバルコナレザーから考える】

  1. 自動車用レザー

 自動車用レザーシリーズ第七弾は、

アウディのバルコナレザーです。

 メルセデスベンツのカスタマイズ部門がデジーノでBMWがIndividualなら、アウディはエクスクルーシブとなっており、そのエクスクルーシブで展開されているレザーがバルコナレザーとなります。つくづくこの三社は何かと比較しやすい構図になっています。

バルコナレザーとは

 バルコナレザーはデジーノレザーやIndividualのメリノレザーと違い、

銀面は全てきめが細かく控えめなシボで統一されています。この点がとても興味深いです。

 以前それぞれの記事でも言及しましたが、デジーノはきめ細やかでスムーズなタイプの他にも

大ぶりなシボのラインナップも用意し、Individualもきめ細やかなスムーズなタイプは「ファイングレイン」として設定する一方で、

このように大きなシボを強調したタイプも揃えています。

 スムーズでしっとりとしたレザーには確かにとてもわかりやすい魅力がありますが、シボの強さを活かした表情豊かなしっとりレザーにも、得も言われぬ充足感があるものです。おそらく、アウディもバルコナかその他のエクスクルーシブでゆくゆくは大ぶりなシボのラインナップを追加してくるとは思います。

 ただ、現状ではアウディは公式HP上でバルコナを敢えて”non-grained”と表現し、それがエレガントでラグジュアリーな質感に寄与するとしているので、大きなシボの新ラインナップが登場するのはまだ先の話かもしれません。

 そして、バルコナは植物タンニン鞣しのノンクロムレザーかつセミアニリンレザーですが、たしかアウディとフォルクスワーゲンは通常のレザーもほとんどがノンクロムだったはずです。

 一般的に、クロム鞣しのほうが柔らかくて耐久性も備えた質の良いレザーを安価で早く大量に生産できます。わざわざノンクロムを選んでアピールするということは、グループ内でも台数が出るブランドゆえに、環境への配慮が行き届いているというメッセージなのでしょう。

 もちろん、クロム鞣しだからといって環境に配慮していないということではなく、むしろ、先進諸国の名だたるタンナーであれば、どのような鞣しであろうと環境への配慮には万全を期しています。そもそも、そうでないと淘汰される時代ですから。

 ちなみに、バルコナ(valcona)という名称の由来がわかりませんでした。火山の”volcano”にちなんで名付けられていそうですが、といってアナグラム造語というわけでもなさそうです。バルコナレザーが登場する以前の”valcona”という文字列は、”falcon”や”volcano”のタイプミスくらいでしかネット上に存在していなかった単語です。

 これはあくまで想像に過ぎませんが、このような手垢のついていないまっさらな空白地帯の文字列だったことに加え、アウディとしては火山の”volcano”っぽい意味も意識させ且つ語の響きも良いので、この単語は新たな意味を付与するに値するとでも考えたのかもしれません。

座って触って

 昨年、アウディフォーラム東京で

RS6と

RS7がお披露目された際、RS7にはバルコナが設定されていたのでまじまじと見て触って座ってきました。ややマット(matte)な質感通りに指先を捉えてくるタッチ感は、RS7のようなホールド性も無視できない一台には本当にぴったりに思えました。

 着座した際はただ接触面の摩擦で支えるということではなく、もっと身体の芯の部分で支えられている印象です。もっとも、これはアンコのウレタンやシート形状など、シート全体での効果だとは思います。

 バルコナレザーの5年物10年物を見たことがないのでこれも想像に過ぎませんが、そんなにヤワなレザーには思えませんので、アンコ部分も含めてそれなりの耐久性は備わっていそうです。

サンプルの見せ方

 些細なことかもしれませんが、アウディファーラムのサンプルが凄く気に入りました。バルコナやアルカンターラの

大きなサンプルです。

 シートのように広い面で使われるレザーであればあるほど、サンプルは完成時に近い大きなサイズでないといけません。手のひらサイズにも満たない小さなカラーサンプルだけで正確な仕上がりイメージを描ける人などそうはいないはずです。

 特に、ベージュ系など似たような色味が何種類も存在する場合、大きなサンプルか同仕様の現物を見ておかないと、完成時とイメージとの間に齟齬が生じてしまいます。もちろん、CGイメージでも正確な質感や色味までは再現できません。

 この点について、ベンツのデジーノレザーは

この手のレザーサンプルとしては標準的なサイズをしています。これくらいのサイズであれば良識的なサイズと言えるでしょう。

 BMWのインディビジュアルサンプルはもっと大きく、

シートやインパネへの張り込みを想像しやすいサイズと言えます。このサンプルをこのままシートやインパネにあてがったら、かなり正確な完成図をイメージできることでしょう。

 そして、私が見た中で最も大きかったのが、

今回のバルコナレザーでした。

 私はバルコナレザーで実際にオーダーをしたことがないので具体的な手順はわかりませんが、この大きなサンプルを実車にあてがってシートに合わせたりするはずです。手のひらサイズのサンプルを持ってウロウロするよりは、間違いなく正確な完成図を描けるはずです。

インパネ部分へのレザー設定

 アウディについて常々もったいないと感じていたのは、インパネ部分へのレザー設定が非常に少ないことです。ダッシュボードへのレザー設定はほぼ存在していません。

 上述のRS6とRS7の展示を見に行った際、最初にインパネを見る癖のある私はドアを開けてすぐ「ん?」と感じました。標準モデルと変わらず、ダッシュボードやインパネ回りが普通の合成樹脂のままだったからです。

 この点について思わずスタッフの方にうかがったのですが、「そうなんですよー…」とのことで、やはりスタッフの方も気になってはいたようです。たとえエクスクルーシブでカスタマイズしようとしても、RS6やRS7ですらダッシュボード上下をフルレザー仕様にはできないとのことで、これはつくづく残念だとスタッフの方もおっしゃっていました。

 当時は4ドアクーペという言葉が定着しかけた頃で、CLS63AMGとM6グランクーペとRS7スポーツバックの3台は何かと比較される存在でした。

 CLS63AMGやM6グランクーペのメディア向け車両や展示車両は当然のようにダッシュボード上下全体がフルレザー仕様だったので、この三台を比較してしまうとアウディだけあれだけ面の大きなインパネが合成樹脂どまりで違いがよくわかってしまいました。

 もちろんRS7もRS6もインパネ部分は凄く精緻で、それはいちいち顔を近づけたり指先で触れなくても伝わってくる静的質感の高さです。

 しかし一方で、やはり手を触れなくても一目で感覚的に訴えてくるレザーの質感にも無視できない魅力があり、根本的な素材レベルの違いは大きかったです。

 スタッフの方によると、そもそもアウディの現状ではエクスクルーシブを駆使したとしても、インパネ全体をフルレザーにできるのは

S8も含めたA8系とR8の2車種しかないとのことでした。本当に設定が少ないです。同じくスタッフの方によると、インパネへのレザーの張り込みには職人の高度な技術が必要であって、アウディはまだそれを広く供給できる体制にはないとのことでした。このお話をうかがった当初は、ベンツやBMWとでは高級化路線の歴史の差が出てるのかなとも思ったのですが、おそらくそうではないはずです。VWグループが本気で取り組めば、すぐに実行できるはずです。そもそもVWグループの稼ぎ頭であるベントレーは当たり前にフルレザーですからね。

 この点については、VW内の他ブランドとの整合性のためか、あるいはアウディ自体のブランディングとの整合性のためかはわかりませんが、そもそもアウディのインパネでレザーを前提にしたデザインとなっているのはA8系くらいで、標準でレザー張りになっているR8ですらそのようなレザー前提のインパネデザインになっていないことも気になります。やはりグループ内でのヒエラルキー維持か、あるいは何らかの意図の下にアウディはレザー前提のデザインと距離を置いているのでしょう。

 もっとも、レザー前提だから良いというわけでもありません。BMWの6シリーズはアストンマーティンやベントレー同様、完全にレザー前提でレザーでなければ成り立たないインパネデザインですが、あれは最上級のメリノレザーが前提のデザインでもあります。もし標準仕様のままだとかえって不格好に見えてしまうのです。これはこれで大きなリスクですので、まさに一長一短と言えましょう。

さいごに

 アウディを考える際にはついベンツやBMWと比較してしまうのですが、アウディも比較されることは想定しているのでしょう。「たぶんベンツはこの部分についてはそこまで考えてないだろうな」というところまで比較されることすら想定しているかのようです。結果、アウディを見ているとベンツやBMWもよく見えてきます。

 アウディが注目される背景には、車自体の魅力だけではなく、アウディを通して初めて見えてくる他メーカーの姿という事情もあるのかもしれません。少なくとも、レザーを見ているとそのように感じました。「あれっ、BMWだとこれどうだったかな」というのが必ずあります。たとえ目指すところが細かく違っていたとしても、この三社にはこれからも競い合ってもらいたいものです。

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