ファセルベガのファセリアF2Bです。初めて実物を見ました。クラシックカーフェスタin神宮外苑での一台です。
この車を知ったのは小沢コージ氏の「クルマ界のすごい12人」という新書を読んでいたときのことです。書名にある「すごい12人」の中には、環八沿いにあるリンドバーグの創業者藤井孝雄氏も選ばれていました。そこにファセルベガが登場します。
小見出しは、「ファセル・ベガの衝撃」。松濤中学校から獨協高校へと進んだ藤井氏は、当たり前のように車で通学してくる同級生の面々に驚いたそうです。特に、「鮮明に残ってることがあってね。それはファセル・ベガ。毎朝必ず、運転手に運転させて来る奴がいるんですよ。後ろのドアを開けてもらってね。強烈でした(笑)」とのことで、「ハンパじゃなくってショックを受けました」と語っています。
そして、「ファセル・ベガとはフランスの退廃的なまでの高級車である。デザインは優美でエレガントでかつ麻薬的」との小沢氏の言葉が続きます。新書内には挿絵も写真もありませんでした。読んでいたのは二年ほど前のことです。自動車の歴史も伝統も何もかもを知らなかった私にとって、ただ言葉だけで理解するにはおぼつかないものの、しっかり突き刺さりました。ファセルというメーカーのベガという車種としてではなく、「ファセルベガ」という一単語、記号に昇華されて。
「2CVがないなら、ファセルベガに乗れば良いのに」。
空の上からマリー・アントワネットがささやいています。退廃的ということで、今思い返すと勝手にそんな車を想像していたわけです。
たしか、この時はパソコンを開いてネットをさまよい画像も確認したはずなのですが、記憶に残っていません。ピンと来なかったのでしょう。勝手に記号化した「ファセルベガ」に一致しないと。しかし、神宮で見たときには、おぉっと思ってしまいました。
実車を見たときにすぐ頭に思い浮かんだのが、マセラティの
初代クワトロポルテです。これは日本自動車博物館での一台ですが、こちらの顔の突起具合と似ていると感じました。ただ突起しているだけではなく、指でなぞるとビクッと反応してくれそうな、そんなイボというかオデキというか、色気のある突起具合に感じました。
マセラティの場合はまだ存続していますから、今の
クワトロポルテにもその突起は継承されているようです。
フロントの突起、隆起具合ということで言いますと、他にもさまざまなメーカーでデザインされています。ただ、そのどれもが艶っぽさと結びついているわけではなく、敢えて一線を引いてる場合もあるように感じます。
たとえば、サクラオートヒストリーフォーラムに参加していたブリストルの
406もグリル部分が出っ張っていますが、こちらは艶気は狙っていないようです。車幅、フロント部に対するグリルや出っ張り具合の比率も関係しているのでしょうか。
ところ変わって渋谷ヒカリエで開催されたマルトコ板金自動車ショウ。こちらではシェルビー
コブラが出っ張っていましたが、同じく艶がる風でもないデザインです。むしろマッチョな印象があります。
熱海ヒストリカG.P.で出走していた
コブラもやはり力強さが全面に出ています。黒曜石のような黒光りボディなので強さが増して感じられます。何より、私自身がいろいろなイベントでコブラの迫力溢れるエンジン音を聞いてしまっているので、力強いエンジンの存在感抜きに純粋にデザインだけで見ることができないという事情もあります。
八王子いちょう祭りのパレードにいたボルボの
P1800はどちらかといえば艶路線に振っているのかなと思いました。色も魅力的です。このボディカラーが何という色なのかはわかりませんので、カワセミブルー方式で勝手にカワセミグリーンなんて命名し、一人納得しています。
日本海クラシックカーレビューで見たたデイムラーの
SP250も口元が出っ張っていますが、これはまた別路線という感じでしょうか。これは突起というより、いかにも口という印象があります。
そして戻ってファセルベガですが、
他の車と比べた後で改めて見ると、デザインだけで車を見るというのはつくづく難しいことだと感じます。このファセルベガという車への入口が前述の新書ではなく、また違ったエピソードでこの車を知っていたなら…おそらく今、全く違ったことを書いていたんだろうと思います。
まぁそう思いつつも、えいやっで投稿するわけですけども。
遠い国で、わずかな時期にだけ生産された車。
そういう生い立ちの車は、色々と想像をかき立てられます。
というわけで、今回はフロントの膨らみで話も膨らませてみました。
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