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昨年11月にマツダのコンセプトカーである

靭(シナリ)を見てきました。広島県立美術館で開催された『榮久庵憲司の世界展』への特別協力というかたちで『MAZDA DESIGN クルマはアート』も同時開催されており、そこに靭も展示されていました。私にとっては待ちに待った展示です。

靭が遠い日々

靭は2011年の東京モーターショーで撮影していましたが、その後カメラが変わったこともあってまた撮影したいと考えていました。これほどのコンセプトカーですし、そのうちまた各所で展示されるだろうと踏んでいたものの、不思議とその展示に縁がない日々となります。

まず、モーターショーの翌年、2012年5月のマツダフェスティバルに靭が展示されていたようで、同じく2012年6月の信州カーフェスタでも展示されていたことをそれぞれのイベント後に知りました。同じく6月、マツダの株主総会に合わせてマツダミュージアムのロビーで展示されていたことも後に知りました。やはりモーターショーが終わっても続々と展示スケジュールが入っています。

さて次の予定はどうなっているのだろうかとマツダに問い合わせると、次は8月のモスクワモーターショーとのことでした。海外です。8月末のモスクワモーターショー以降に公式の予定はないようで、しばらくはヨーロッパを転々とするそうです。

そして、2013年の2月に問い合わせると、まだ予定はないとのことでした。11月に問い合わせると、当月は中国、その次は台湾で、2014年の1月までは日本に帰ってこないとのことです。意外や日本での予定が全く立っていません。

さらに、2014年の5月にマツダに問い合わせると、どうやら秋ごろに国内で靭の予定が入っているようでした。主催者がまだ公にしていないので具体的な開催日時やイベント名等は伏せられていましたが、ついに国内でも展示されることを知り安心します。

そんな折、2014年6月に京都工芸繊維大学のマツダデザインカレッジで靭が展示されていたことを知りました。どういうことだろうかとマツダに問い合わせると、この展示については急遽決まったとのことで、隔月の問い合わせに漏れる格好になっていました。そういうこともあるのかと思いつつ、秋ごろの予定とやらも知らぬ間に逃してしまいそうで不安になったので、この伏せられた予定の特定にかかります。半日かかりましたが、八方手を尽くした結果、広島市交通科学館のイベントであることを突きとめました。

そして9月、広島市交通科学館のHP上にて、秋季企画展「進化するカーデザイン」に靭の特別展示が明記されていることを確認します。ところが翌10月、同HPの靭が雄(タケリ)に差し替えられていました。交通科学館に問い合わせると、マツダ側から靭を雄に替えて欲しいとの要望があったということです。どうも靭とは縁がありません。

しかしやはり10月、マツダの方から広島県立美術館の『榮久庵憲司の世界展』で靭が展示されることをわざわざご連絡いただきました。感謝至極です。広島県立美術館に問い合わせると写真撮影も可能とのことで、やっと辿り着けました。この県立美術館での展示は当初は新型デミオが予定されていたようですが、デミオは広島空港や広島駅で既に展示されているので、こちらは靭にしようとのことで変更されたようです。

このように定期的に展示予定を確認する車両はもちろん靭以外にもあるのですが、これほど巡り合わせが良くなかったのは靭だけでした。一度も見ることがなく燃え尽きてしまった風籟のように、世界に一台しかないこの靭も二度と縁がないままになってしまうのではと不安になったりもしたものです。

魂動デザインの原点

さて三年ぶりの靭ですが、

全く色褪せることもない姿をしています。むしろ、ただ格好良いと思っていた東京モーターショー2011とは違い、今回はデザイン言語の存在を意識させられたうえでの格好良さを感じます。魂動デザインをまとったアテンザやアクセラ、CX-5にデミオの姿を公道で見ているだけあって、それらをさらにぐっと凝縮させた原点としての魅力を感じることが出来ます。実際に魂動デザインの車に乗っている方であれば、一層よく感じ取れるのではないでしょうか。

今回の展示は

『MAZDA DESIGN クルマはアート』というお題目なので、

会場内では次期ロードスターの

クレイモデルや、クレイモデルとも思えない

クレイモデルなど、靭以外の展示も盛りだくさんでした。靭だけではなく靭デザインの靭チルドレンも展示されることで、見る側の楽しむ視点を増やしてくれています。

また、今回は東京モーターショーよりも間近で見られたので、遠慮なくにじり寄ることができました。上から見下ろしてみましたが、

まるで真上から見られることも想定しているかのような表情で応えてくれます。

そして、真横からも存分に鑑賞します。

パソコン画面上で他プログラムのウィンドウのタイトルバーを前後ホイールに重ねていただくと分かり易いのですが、この画像は前後ホイールを完全に水平に揃えています。画像の傾きによる前のめり角度は一切つけていません。しかし、フロントからリアにかけてのせり上がったような造形で、独特の前のめり感が出ています。

しかも、ボディをただ前傾させることによる前のめり感ではなく、キャラクターラインを前傾させることによる前のめり感でもなく、体幹レベルから滲み出るような、今まさに動かんとする感じです。

マツダによると、

『生物が見せる一瞬の動きの強さや美しさです。それは、日本古来の武道である剣道の突きの一瞬、あるいはチーターが獲物を狙って力を溜め、飛び掛る一瞬。マツダデザインは、この最大の集中力を要する一瞬に、瞬発的な力、スピード感、凛とした緊張感、洗練された美しさ、ある種の色気を感じ、その生命感あふれる動き、心ときめかせる動きを「魂動(こどう)」と定義しました』

とのことですので、前のめり感が小手先の機械的な演出ではなく、ごく自然に滲み出るのも当然のことなのでしょう。

ボディはぴっかぴかで物凄く映り込んでおり、

その映り込みを見ているだけでも

何一つ無駄な表情はないように感じられ、

いつまで見ていても飽きません。天文学的な数の造形の上に成り立っている人間や動物同様に、この靭にも思わず触れたくなるような

人肌感は健在でした。人間や動物と違う点があるとすれば、込められた思いが形になった瞬間を捉えたような、その種の緊張感も靭からは伝わってくることでしょうか。

靭の価格

靭には二億円近くが注ぎ込まれています。市販車と比較するとべらぼうに高く思われますが、コンセプトカーなので

ドアミラー型カメラや

ホイールなどパーツは全て一点物ですし、デザインから削り出しまで物凄く人の手がかかっています。このクラスのコンセプトカーであることを考えると、トータルでは非常に効率よく製作できているのではないでしょうか。

靭のレザー

靭に使われているレザーのタンナーはミドリホクヨーで、ショーカー用の特注レザーとなっています。

一般的なショーカー用レザーであれば、耐候性や耐摩耗性などの耐久性を犠牲にし、見栄え重視のレザーを採用する傾向があります。ショーカーやコンセプトカーの段階であれば、デザイナーの意見が重視されるからです。もちろん、このようなレザーは実用向きではなく、極端な例で言うと、一回の屋外展示だけで色が飛んで退色してしまったり、あるいは一回のイベントの乗降に耐えられずに摩耗で表情が変貌してしまうこともあります。

しかし、この靭については、

あくまで

窓越しに見ただけでの印象ですが、センターコンソールやダッシュボードやシートやステアリングなど、

特に問題は生じていないようでした。靭に使われているレザーは一般的なショーカー用ではなく、もっと長い射程を想定しているかのように感じられます。

靭の役割

国内に戻ってきてからの靭は、マツダ本社内の人間であれば誰でも見られるような場所に置かれていたようです。そして、デザイン部の方々が必要に応じてデザイン部へ持っていくとのことでした。

トヨタのデザイン部門が2000GTのスケールモデルを間近に置いて常にデザイナーの意識を高めているように、

靭も

マツダの

デザイナーを

鼓舞し続けているのでしょう。

また、靭はとても未来的ではありますが、私のような素人目に見ても

サバンナRX-3のグリルが継承されていることはわかります。おそらく、他にも私が気づかない継承点はあることでしょう。

そう考えると、

靭が担っている役割は想像以上に大きいことがうかがえます。

さいごに

自動車はアングルによってニュアンスが変わってきますし、カメラも広角か望遠かでまた表情が違ってきます。撮影している際、果たして私が感じたままの靭が撮れているだろうかと不安も覚えましたが、見るに堪えないような失敗画像はなかったようでひとまず安心しています。

この靭がお披露目された当初は、是非ともこのまま市販化して欲しいと強く願っていたものでした。しかし、魂動デザインの原点でもあり、まだまだ今後のマツダデザインを支えていく存在であることを考えると、やはり市販車両ではなくコンセプトカーのままだからこその靭と言えます。私はデザイナーでもないので靭を毎日のように見て意識を高める必要などないですが、それでも年に一度くらいは

意識を高めてみたいものです。

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