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今回は、自動車用レザーシリーズ第四弾として、ロールスロイスのレザーを考えてみます。

ロールスロイスに使われるレザーは大きく二つの時代に分けられます。コノリーレザー時代と、現在のBMW傘下時代の二つです。ロールスロイスの歴史が大きく二つに分かれているため、使われるレザーもそれに準じています。

そんなロールスロイスの創業110周年を祝うツアーイベント「アイコン・ツアー」が、今月16日に

六本木にやって来たので足を運んできました。会場内では

ゴーストの限定仕様車やファントム、レイスが展示される一方で、

内装のビスポーク部門も紹介されていました。もちろん、

各種レザーも展示されています。そこで、せっかくなのでコノリーレザー時代とその後を考えてみたくなった次第です。まずは、コノリーレザーから見ていきます。

コノリーレザーとは

コノリーレザーといえば、英国の英国による英国のためのレザーでした。元来は植物タンニン鞣しだったようですが、具体的な鞣しのレシピは当然非公開です。本家コノリーブラザーズ社のコノリーレザーは2002年に皮革事業から撤退していますが、現在はオーストラリアのレフラー社(H.Leffler & Son Pty Ltd.)や英国のUK Hide社などがコノリーレザーを供給しています。

それぞれが本家コノリーレザーのレシピを持っており、そのレシピに基づいた特別オーダーにも応じているものの、クラシックロールス&ベントレーを専門に扱っている方々によると、当時のコノリーレザーと現在のコノリーレザーとでは風合いが微妙に異なっているそうです。その微妙な違いが何に起因するのかを窺い知ることはできませんが、年々厳しくなった環境規制の影響で鞣し工程に何らかの変更を余儀なくされたであろうことに加え、供給される原皮の質が変わってきたことも挙げられるのでしょう。

市場から求められる肉質が変化すれば、当然その副産物としての牛皮の質も変化します。霜降りの美味しさを世に広め、海外でも飼育されるようになっている

「和牛(Wagyu)」は、その脂肪分の影響で実は原皮としての市場価値は高くありません。また、狂牛病対策の「特定危険部位規制(Specified Risk Material Control)」の影響で、生後30ヶ月を超える大きな成牛の原皮は流通量が減っています。傷のない部位だけを抜き出してつぎはぎで誤魔化すことなどせず、コノリーレザー全盛期であれば大きく一枚で贅沢にあてがえていたような隅から隅まで傷のない原皮も、その絶対数が減ってしまって現在では入手しづらくなっています。

ロールスロイスとコノリーレザー

ロールスロイスとコノリーレザーが急接近したのは第二次大戦後となります。

第二次大戦前のロールスロイスはボディを自前で作っておらず、たとえば、

こちらのファントムIIIのボディはフーパー(Hooper)、そして

ニーリングレディでお馴染み

この20/25HPクーペのボディはフリーストーン&ウェッブ(Freestone&Webb)という具合に、ボディ製作はコーチビルダー任せでした。ロールスロイスが自前で作っていたのは、航空機時代からのエンジンとシャシーです。

1925年製の

ファントムI Torpedo Tourerのエンジンルームには、

“THIS CHASSIS IS MANUFACTURED UNDER ROLLS-ROYCE PATENTS”との誇らしげなプレートが確認できます。

しかし、戦後はエンジンやシャシーに加えてボディも自前で作ろうとし、ウッドやレザーなど内装材も自ら選別することになりました。その選択肢に、当時既に上流階級を相手に名を馳せていたコノリーレザーの名前もありました。

ところが、当初ロールスロイスに納品された数百枚のコノリーレザーは、ほんの数枚(一説によると、たったの一枚)を除いて全てが不良品として突き返されます。「1mmの傷がある」「染みがある」等で良品に非ずと判断されたためです。コノリーレザーもプライドがありますので、傷の原因である有刺鉄線、染みの原因である牛バエを排除できる環境を求め、英国内の牧場はそのままにスカンジナビア半島の牧場を用意して対応しました。ロールスロイスに認めてもらうためにここまでやったのです。

結果、ロールスロイスの要求にことごとく応えられるようになったコノリーレザーですが、コノリーレザーの中でも最も品質の良いグレードがロールスロイスに納められる契約になっていました。ベストなコノリーはまずロールスロイスへと納品され、次に高級家具用、その次がアストンマーチン、そしてフェラーリ、ジャガーという序列が当時あったと言われています。家具用と自動車用とでは求められるスペックが全く異なってくるはずなのですが、それでも傷のないフローレスでバフがけもせず風合いもタッチ感も損ねないベストコノリーはまずロールスロイスへというのが当初の契約でした。

そして、そんなベストコノリーが納品されていたロールスロイスですが、それでも各時代によってベストの内容が異なっています。クラウド時代までがベスト・オブ・ベストで、次がシャドウ時代、その次がSZ時代と言われています。といっても、これは歩留まりを度外視した途方もない贅沢という意味でのベストなので、年々改良されているはずの鞣しが施された後年のコノリーレザーが必ずしも劣っているということではないとは思います。ただ、時代ごとにコノリーレザーの内容が異なっていることは事実なので、現在もコノリーレザーを供給している先述のタンナーから色だけを合わせてストックを購入したとしても、風合いや表情が当時のコノリーと異なっていることはあるかもしれません。

ということで、贅沢全盛期のコノリーレザーを見ていきますが、実は当時物のコノリーレザーなのかを見分けるのがなかなか難しく、面白いです。

たとえば、ファントムVの日本への第一号車両は英国大使館に納車された一台ですが、この車両のまず

フロントシートを拡大しますと、

このようになります。これは当時のオリジナルのままでしょう。しかし、同じくこのファントムVの

ドア内張を拡大しますと、

こちらは現行のコノリーレザーのように見えます。そして今度は後席シートの

背もたれ上部を見てみますと、

また違った表情となります。

このファントムVが英国大使館に納車された当時のボディカラーは黒単色でしたが、現在はツートンへと塗り分けられています。どのオーナーの段階でツートンになったのかはわかりませんが、このクラスの車両であっても、私から見ると非常に思い切ったような手直しが案外と普通に行われていることに驚きます。内装のコノリーレザーについても同様な手直しが加えられてあっさり張り替えられている可能性も否定できません。

また、このファントムVのシートやドアに見られる染みや寄りじわから察するに、普段のメンテナンスには力を入れず、使い倒してその味を楽しむオーナーもいたようです。これはあくまで私の勝手な推測ですが、全盛期のコノリーレザーにそつなくメンテナンスが施されていたなら、優に50年くらいは綺麗な状態を維持できるのではないでしょうか。もちろん、アンコ部分も含めてのメンテナンスです。

「ロールスロイスは壊れない(Rolls-Royce does not break down)」を始めとする数々の伝説を生み、過剰品質に自負心を持ち、100年&100万キロまで部品供給するとも言われ、大英帝国がタイヤを履いて走っていたようなロールスロイスですから、内装が50年くらい持つと想像しても許されることでしょう。

BMW傘下でのレザー

次に、BMW傘下になってからのレザーを見ていきます。BMW時代になってからは、バイエルン産の原皮を利用しているHEWA Leder社のレザーを使っています。通常のオーダーであれば、まずシートには

しっかり毛穴が確認できる「ナチュラルグレインレザー」と名付けられたレザーが奢られ、ダッシュボードのように熱や紫外線対策で耐候性が強く求められる部分には

「プリシュリンクレザー」と呼ばれる低収縮革が奢られ、センターコンソール部分には耐摩擦性・耐摩耗性に重点が置かれた

「チップドレザー」が奢られています。

ドアの内張り部分については、

シボが強く出たレザーが人気だそうです。

ビスポーク部門のレザー

ロールスロイスの通常のオーダーですら縁がない私にとっては、ビスポークでのオーダーなどさらにまた遠い世界の話となりますが、今回のアイコンツアーでロールスロイスの方々から伺った話を一言でまとめるなら、「何でもできます」ということでした。

アイコンツアーでは、


とても自動車用とは思えないような


サンプルが実に


豊富に用意されていました。しかも、内装の一部と言えばそう言えなくもないような

バッグもお応えできるとのことです。凄く素敵なバッグでした。たとえロールスロイスを示すマークが一切無かったとしても、素材の良さだけで勝負できそうなバッグです。

そして、綺麗な色味が目立っていたので色数をうかがったところ、ビスポーク部門では通常160色を用意しており、現時点で最大2,000色まで対応できるとのことでした。

もちろん、レザーは色だけではなく、

刺繍も自由自在のようですし、


イグアナになりきっている型押しカーフまでありました。車ではなく宝飾系ブランドであれば、爬虫類系のエキゾチックレザーに見立てた型押しカーフは存在しますが、耐候性や耐摩耗性のハードルが非常に高い自動車用でこのようなレザーは初めて見ました。本気の遊び心が感じられます。おそらく、クロコダイルでも対応してくれるのではないでしょうか。

そもそも、レザーに限らず内装については


何でも対応してくれそうな空気が漂っていました。”Bespoke Commission”の文字が

頼もしく見えてきます。

さいごに

ロールスロイスのレザーを知れば知るほど、私には現実感がない世界の話となります。ただ、二つの時代で供給されるタンナーは異なってはいるものの、両者の間には何の断絶もないように思われました。

いつの時代であろうと、ロールスロイスを買う人には「ロールスロイスを買っておけば間違いない」という意識があるはずです。そしてロールスロイスは自動車の枠を超えてその期待に応えており、その一例としてレザーがあるというだけの話なのでしょう。

それにしても、アイコンツアーはとても楽しかったです。120周年でも是非開催して欲しいです。

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