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BMWのメリノレザーです。

最近ではレザー・メリーノと呼ばれることもあります。このメリノレザーについては表情がきめ細やかで手触りもスムーズな革だと思われがちですが、一見するとネバダレザーやダコタレザーと区別がつかないほどシボが強く出ている

メリノレザーもあります。もちろん、シボが強かろうが浅かろうが、上質きわまりない革であることに変わりありません。

メリノレザーについては公開情報が非常に少なく、BMWジャパンの営業の方々も詳細は把握していませんでした。BMW AGに問い合わせてもらっても情報が降りてきませんし、そもそも、BMW AGとしても多くを語っていません。

そんなメリノレザーについて、手に入る公開情報から迫れるところまで迫ってみようかという、今回の記事です。以前のダッシュの記事を自動車用レザーシリーズの第一弾とするなら、今回は自動車用レザーシリーズの第二弾となります。

メリノレザーとは

BMWのメリノレザーとは一体どのようなレザーなのか、BMW AGから外へは詳細が漏れ伝わらないこともあって、明確な定義はわかりません。「メリノ」と名乗るからには羊のように柔らかくて手触りがよいレザーを自負しているのでしょうが、名前の由来については公に言及されていませんでした。

公になっている僅かな情報をかき集めた結果、

1.南ドイツ産の原皮である
2.牧場段階から管理されている
3.型押し(エンボス)をしない

の三点を軸に考えると何か見えてきそうです。

南ドイツ産であることの第一の意味

まず1つ目のポイントである南ドイツ産についてですが、原皮が南ドイツ産であることの第一の意味は、寒冷な気候にあります。

南ドイツといえば、BMWの本拠地であるバイエルン州があります。隣のバーデン=ヴュルテンベルク州と並んでドイツ南端に位置しており、ドイツはこの二つの州でスイス、オーストリアと国境を接しています。その国境にそびえ立つのがアルプス山脈で、ドイツ側はドイツアルプスとも呼ばれています。

バイエルン最大の都市であるミュンヘンは北緯48度。日本で言うなら樺太と同じ緯度に位置するので、地理的には北海道よりも北国です。

参考のためにミュンヘンと札幌と東京の2013年の平均気温を比較してみますと、

このようになります。ミュンヘンの気候は寒暖差の少ない札幌という感じでしょうか。

一般的に、暖かい地方より寒い地方で育った牛の原皮のほうが良質です。アブやダニや蚊などの虫刺され跡にイボや皮膚病、そして糞尿によるいわゆる「糞焼け」という爛れなど、皮膚にダメージを与える諸々のリスクが寒い地方ほど低く抑えられるからです。ただ、誤解なきように書きますと、これはあくまで原皮の質という意味での良質さであって、肉の美味しさについてはまた別の話となります。

BMW伝統のボディカラーである

アルピンホワイトは、国境のアルプスに臨む雪の白がモチーフとなっています。BMWジャパン純正のカラーサンプルでは、このアルピンホワイトの正式名称が

アルプスホワイトになっているくらいです。

このアルプスにほど近い気候で享受している寒さこそが、南ドイツ産であることの第一の意味と言えます。

南ドイツ産(ドイツ産)であることの第二の意味

南ドイツ産であることのもう一つの意味は、厳格な管理態勢から生まれる信頼性にあります。これは、南ドイツ産であることの意味というよりも、ドイツ産であることの意味と置き換えて問題ありません。長くなりますが、一例として環境規制を考えてみます。

1997年に大きく報じられた日本の環境ホルモンやダイオキシン汚染のニュースを思い返していただきたいのですが、これはまさに土壌汚染問題でした。それまでの日本には土壌中のダイオキシン濃度に関する規制がない状態、つまり垂れ流し状態となっていたのです。そこで、急ぎ足ながらも集中的な議論を経て翌1998年に土壌中濃度グラム当たり1,000ピコグラムを上限とする暫定ガイドラインが発表されました。

ただ、これは当時すでに環境先進国と言われていたドイツの数値に合わせた格好だったものの、ドイツとは違って各論の規制値を設けず、土壌一律で1,000ピコグラムまで許されることになりました。ドイツでは、公園など子供が遊ぶ場所では特に厳しく100ピコグラム規制を敷いています。

仮に、1グラム当たり200ピコグラムのダイオキシンが検出される砂場が日独両国にあった場合、ドイツだと公園が封鎖されて土が総入れ替えされるのに対し、日本だと汚染扱いにはならずに子供達がその砂場でトンネルを作ったりままごとをしたりと遊び続けることになります。また、同じく野菜畑など農地については、ドイツではさらに厳しい40ピコグラム規制となっていました。これは、牧草を食べる牛を通して牛乳にまで汚染物質が蓄積されることを踏まえた上での数値です。一方、日本では上記の通り、一律1,000ピコグラムまで問題なしとされました。

ドイツという国はとりわけ公害が少なかったわけではなく、酸性雨から水質汚濁、土壌汚染まで幅広く社会問題として公害を経験しています。しかし、ドイツの場合は何か問題が起こった際、他国比で大体2倍から3倍くらいのスピードと密度で対処している印象があります。

例としてもう一つ、レザーのクロム鞣しにも関係するクロム汚染について考えてみます。

日本でのクロム公害といえば、日本化学工業(日化工)の六価クロム問題がその代表格です。六価クロム鉱滓(廃棄物)の廃棄問題と労働環境の二点で大きな問題となりました。

六価クロムに間近に接していると鼻の骨が溶けてグニャグニャになり、右の穴と左の穴との間に空洞ができます。肺がん罹患率も急増します。しかし、まだ問題が発覚していなかった1945年までは、日化工では「鼻に穴が空かなきゃ一人前じゃない」と言われながら働いていました(元従業員古沼傳吉氏談)。そして、1945年にクロム鉱滓が住宅地へ大量廃棄されていたことが発覚し、クロムの有毒性に社会的関心が集まり、その後クロム従事者の肺がんが労災認定されたのが1974年のことでした。有毒性の認知から労災認定まで30年近くかかっています。

一方、ドイツでは1932年にクロム製造工業での健康被害が同様に社会問題となり、1937年にはクロム従事者の肺がんが労災認定されています。

クロム鞣しがドイツで発明されたからという理由でことさらクロム問題についてだけ対応が迅速だったということではないはずです。他国に影響を与えている酸性雨問題については腰が重かったこともありましたが、ドイツ国内に影響を与える汚染に関しては、ドイツはこの上ない当事者意識で対応しています。

大気汚染、水質汚濁、土壌汚染など、ドイツでは本当に万事厳しい規制が敷かれています。これらを人間の目線で見るとがんじがらめで窮屈とも言えますが、ドイツに住んでいる牛の立場から考えると、澄んだ空気に綺麗な水、豊かな土壌に恵まれた最高の環境に違いありません

ドイツ産レザーというだけで既にプレミアムな意味を帯びてくる理由には、厳格な管理態勢の一角を占めるこの環境規制にあると私は考えています。原皮の質が良いということは、他の原皮とは既にスタート地点が違っており、トーナメントで常にシード権を確保されているようなものです。

次に、環境規制以外の管理態勢である、牧場管理を見ていきます。

牧場段階から管理されていることの意味

この「牧場段階から管理されている」ことは、厳格な管理態勢の一種とも言えますが、あえてスピンオフさせました。

南ドイツの気候で虫刺されなど皮膚汚しのリスクも少なく、また汚染とも縁遠い環境でのびのびと育った牛であっても、それぞれが元気いっぱいに喧嘩をして互いに角で傷つけ合ってしまっては、原皮としての商品価値は下がってしまいます。また、牧草用の大きなピッチフォークで牛の尻をつついて移動させても傷が付いてしまいます。といっても、楽に管理をするために有刺鉄線を張り巡らせてしまっては、やはり傷の恐れがあります。他の動物に襲われて傷が付いたりやはりストレスが与えられても、商品価値は下がります。原皮の質を考える上で、牧場段階での管理は非常に重大です。そして、メリノレザーにはこれらの管理が行き届いた牧場の原皮が使われています。

このような牧場段階での管理はメリノレザー、あるいはドイツだけの特権ではないはずですが、シード権にあるドイツでこのような管理が行われれば、まさに鬼に金棒でしょう。

ドイツのレザーというだけでプレミアム

恵まれた環境と徹底した品質管理のもとで育まれた原皮ですから、ドイツ産であるというだけで、あとは自らアピールしなくとも信頼など勝手に付いてくるのかもしれません。

ロールスロイスとベントレーがかつて御用達にしていたコノリーレザーの原皮は主にスカンジナビア産と南ドイツ産でした。コノリーレザー無き現在では、両社ともに原皮はドイツ産となっています。ベントレーについては

南ドイツ産の原皮をイタリアのサプライヤーを通して調達していることが公にされていますが、具体的なタンナー名や牧場名までは公にされていません。ロールスロイスについては

バイエルンの原皮を利用するHEWA Leder社のレザーであることが関係者にのみ公開されています。BMW製となった新生ロールスロイスのファントムがトップギアのシーズン2-2でレビューされた際、エンジンやギアボックス、サスペンションにブレーキ、ボディだけではなく、”even the leather on the seats comes from a flock of cows in Bavaria(シートのレザーすらバイエルン産だ)”と、英国の誇りが英国外の技術・素材で成り立っていることをジェレミーが嘆いていたシーンをまだ覚えている方もいらっしゃることでしょう。

また、GT-Rの

内装豪華バージョンであるエゴイストに使われたシートンレザーも、原皮は南ドイツ産です。

そして、自動車用に限らず、そもそも家具の世界でもドイツ産の原皮は一流家具御用達となっています。

世界一の高級家具メーカーがどこなのかを一社だけに絞るのは非常に困難ですが、超一流メーカー群のトップリーグとして考えるなら、その構成メンバーからカッシーナ社やデセデ社の名前を排除する人はまずいないでしょう。たとえばその

デセデ社で使われているレザーの原皮はドイツ産ですし、カッシーナの独占販売権を持つカッシーナ・イクスシーが使っているレザーのうち、最高級のラインナップも

やはりドイツ産となっています。

規模だけで考えるなら原皮の一大産地は北米ですし、最近はブラジルや東南アジアも有力な候補地ですが、それでも、高級ブランドにドイツ産が集まる背景には、「約束された品質」があると言っても良いのではないでしょうか。

私などはもうドイツ産と聞くだけで無条件にプレミアムだと信頼してしまいそうになります。

型押し(エンボス)をしないことの意味

3つ目のポイントの「型押しをしないこと」についてですが、そもそも、型押しレザーだからといって、レザーとしての格が著しく落ちるということは決してありません。日本の常識から言えば、傷のないカーフに型押しなどもったいなくてとてもとてもという話になりますが、主にヨーロッパではダンヒルだろうがエルメスだろうがルイヴィトンだろうが、良質なカーフに型押しをしてしまいます。

ただ一方で、型押しには質のよろしくない原皮の傷を隠すという役割もあります。つまり、メリノレザーが型押しをしないということは、そのような隠すべき傷など存在しないことを意味します。

型押しとは一つのパターンですから、押される型によっては表情が均一になりがちです。もっと言うなら、「表情が整い過ぎている」こともあります。特に、自動車用レザーで使われる型押しは、宝飾系ブランドの

魅せるパターンの型押しではなく、牛革の自然なシボを擬した型押しなので、この表情が均一になってしまうと、どこかちゃちい印象が生まれ、物足りなさを感じてしまいます。

表情が豊かなメリノレザー

次の画像をクリックして細部まで見ていただきたいのですが、

左のレザーと右のレザーとでは明らかに表情が異なっていることがおわかりいただけるかと思います。実はこれは、

メリノレザープラチナ(レザーメリノファイングレインプラチナ)の一枚の吊しサンプルの端っこと端っこを近づけて撮影しただけです。つまり、右も左も同じレザーです。サンプルなのでショールームではこうして敢えてムラ感を残したまま展示しています。

このように一枚の革で表情に変化があるということは、鞣しの際、ドラムの中で空打ちした結果としてできるシボ、いわゆる自シボの証です。型押しで人工的なシボが施されたレザーであれば、極端な話、どこを取っても表情が同じになってしまいます。しかし、メリノレザーではそれはあり得ません。型押しをしない以上、ミクロレベルで厳密に考えるなら、一つとして同じシワ、同じシボは存在しないわけですから。豊かな表情、ここに極まれりです。

このような豊かな表情の中から統一感のある素材が吟味されて厳選されるということは、この時点でもうどれほど贅沢な話かがわかります。BMWのIndividualプログラムでは内装の素材を自分で持ち込むことも可能なほど融通が利きますから、たとえばこのシボを「完全一致な表情で揃える」というリクエストから「背もたれの部分だけはちょっとシボ強めで」というリクエストまで自由にオーダー可能なのでしょう。その場合、どれほど大量の革がさらに選別されるのでしょうか。まさに究極の無駄にして至上の贅沢と言えます。

一般的にはシボのないスムーズな革こそが上質な革と思われがちですし、メリノレザーにも当然そのようなシボの控えめなラインナップも用意されていますが、私は自シボで表情が豊かに出ているメリノレザーもとても素敵だと感じます。

豊かな表情か不揃いか

ここで一つ疑問を覚えた方もいるかもしれません。数あるメリノレザーのうち、シボの強いものは表情が豊かであるということは、すなわち均一ではなく不揃いなのかと。これはその通りとも言えますし、そうでもないとも言えます。特別に不揃い指定でオーダーでもしない限り、通常オーダーでシートにあつらえられたメリノレザー同士の違いを肉眼で感じ取れる方はおそらくいないのではないでしょうか。

どこまでを「豊かな表情」と感じ、どこからが「不揃い」と感じるのかはまさに感覚の問題なので非常に難しい線引きが求められるはずですし、個人差もあることでしょう。ただ、メリノレザーや他社のプレミアムレザーを見て「不揃い」と感じたことは、私は一度もありません。

メリノレザーの供給元はどのタンナーか

メリノレザーを供給しているタンナーが一社ではなく複数あるとすれば、その一つは上で言及したドイツのHEWA Leder社です。HEWA Leder社だけの単独供給なのかは調べてもわかりませんでした。HEWA Leder社はロールス・ロイスとBMW M、そしてBMW i用の各種レザーを供給しているので、メリノレザーも一社で供給しているのだろうとは思います。ただ、このHEWA Leder社は非常にクローズドな経営をしていてる会社なので、マークラインズのような調査会社の情報網にも引っかかりませんでした。

さいごに

以上、メリノレザーについてどこまで迫れたかはわかりませんが、おおよそのイメージは掴んでいただけたのではないでしょうか。自動車用レザーに関心がある方などほとんどいないと思われますが、せっかくなので自動車用レザーをシリーズ化して不定期に続けていきたいと考えています。

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